安息の本棚

本を読了した後の自分の感想を残しておきたいと思い立ち、このブログを始めました。                           コメントに関する返答は仕様上できないようですが、ありがたく拝見させていただいております。Twitterもやってます。 @teruhiro_tose

33.『珍樹図鑑』

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珍樹ハントとは、樹木幹や枝に、動物や有名人にそっくりな模様や形を見つけること。なんともバカバカしいこの遊びに魅せられ。珍樹ハンターとなった著者はこの道十数年。二千点を超えるコレクションから、実物に「会い」に行きたくなるような写真を大公開!

 

33冊目は小山直彦さん著「珍樹図鑑」です。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4166611038/ref=oh_aui_detailpage_o04_s01?ie=UTF8&psc=1

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①全体の感想(※ネタバレ有り)

 本書は、写真とその説明が付記されているもので、すら~と読み終わることができました。ほんの空いた時間に取り出して簡単に読むことができます。

 

 

 「樹の切り株の断面が顔に見える」とか「影が、ある動物に見える」だとか、そのような錯覚を見たことがあると思うのですが、本書ではそれと同じことを樹木から見つけています。

 しかし、自分はそのような錯覚を「見つけてやろう!」と思って見つけたことがなく、偶然歩いていたら見えたことしかないんですよね。なので、著者が錯覚を積極的に探し、それを仕事にしていることに驚きました。ただ、本書の中で見せてもらった写真はどれも普通の視点では見つけられないようなものが多く、珍樹ハンターならではの観察眼を持って成り立つ仕事なのだと痛感しました。

 「おぉ確かにあの動物、有名人、キャラクターに見える!」と一人で関心しましたし、樹木というのはこんなにも不思議な形に成長するのだと感動しました。

 普段気に留めていなかったものも、観察してみると意外と面白い発見があるのかもしれません。

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以上です、ありがとうございました。

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2018年が半分終わってしまいました。

梅雨も明け始めており、さわやかな夏空が拝めそうです。まぁ夏は暑いので好きじゃないんですけど。

逆に僕は夏の良い点を聞きたいくらいです、何があるでしょうか。洗濯物が乾きやすい以外無い気がします。

後は暑いからダイエットに向いているとかですかね?

まぁでもこんなこと言ってても事態は好転しないので、今日も前向きに夏と向き合うことにします。

32.『火の粉』

 

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「「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」 元裁判官・梶間勲の隣家に、二年前に無罪判決を下した男・武内真伍が越してきた。愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い……。武内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴む。しかし梶間家の周辺で次々と不可解な事件が起こり……。最後まで読者の予想を裏切り続ける驚愕の犯罪小説!

 

32冊目は雫井脩介さん著「火の粉」です。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/434440551X/ref=oh_aui_detailpage_o02_s01?ie=UTF8&psc=1

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①全体の感想(※ちょいネタバレ有り)

 普段は大人しくて物腰が柔らかいけれど、怒ると手が付けられなくなったり、急に狂暴になるキャラって今まで何度か見てきたんですけど、その中でもこの小説に出てくる男は一番と言っていいほど凶悪かもしれません。荒々しさというよりは逆に、静けさの中にある恐ろしい部分が読んでいて気分が悪くなるほどでした。身の回りにいたら絶対に近づきたくないですね。

 そんな男と闘う(?)家族の物語です。この家族にはどうか助かってほしいと願いながらページを繰っていました。

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り)

 

・武内の異常性

 梶間裁判長は、的場家という一家の殺人罪として法廷に立っていた武内という男を、証拠不十分として無罪を言い渡しました。その後梶間は引退し、大学の教授として家族と共に暮らしていたのですが、その二年後、竹内が梶間家の隣に引っ越してきます。

 なんと偶然…と思いたいのですが、梶間は引退後、武内会っていて、そのときに曖昧ながら自分の住所を伝えていたのです。つまり、わざわざ隣に引っ越してきた武内は確信犯です。 それだけでもう気持ち悪いと思ってしまいます。自分を無罪にしてくれた恩人…と思っても普通その人の隣に引っ越しますか?いや無いでしょ、ドン引きですよ。

  しかし、これが武内という男であり、味方だと思った相手には近づき、嫌というほど世話を焼き、親切の押し売りをします。そしてその親切を相手が素直に受け取らなければ、ひどく凶悪な一面を見せるのです。梶間が無罪にした事件でも、武内は的場家のすぐ近所に住んでおり、多くの有難迷惑を送っていました。と書けば伝わるでしょうか。

 武内は無罪ではありませんでした。

 

 時が経つにつれ、梶間家の人間も武内の異常性に気づき始めるのですが、気づいたときにはもうほぼ手遅れとなってしまいました。共に住んでいた梶間の息子の妻は彼の異常性を言及したせいで家族仲が悪くなり家を追い出されてしまい、武内に殺された的場家の親族は武内を追い掛け回すうちに殺され、彼の顧問弁護士をしていた関という男も武内に殺されています。敵とみなした時の狂気性は、もはや人間的とは言えません。それは辛い幼少期を過ごした過去に基づくのですが、それでも同情の余地は全く無いと思います。

 

 

 

 

 

 読んだのが結構前であり、この武内の気味悪さばかりが頭に残ってこれ以上感想が書けません。短いですが以上です、ありがとうございました。

 

いやこのまま終わると後味が悪いのでもう少し書くと、武内が実は有罪であると気づき、無罪という判決を下して後悔した梶間は、己の家族を守るために奮闘し、的場家と同じ運命になることは避けられました。完全なめでたしで終わるわけではないのですが、読んでいた僕としてはすっきりしたので良かったです。

 

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 梅雨ですね、雨雲が目立つ空模様となってきました。と言っても僕は雨が嫌いではありません。気温は割と涼しいし、眩しいのは苦手だし、車の汚れは落ちるし、加えて雨の音は落ち着きます。

 そういえば僕が外出しようとすると何故か雨が弱まります。しかし別に晴れるわけではないので、晴れ男という感じでもありません。少し便利な能力ですが、これが雨を嫌いではない理由の一つでもあります。 

31.『僕のメジャースプーン』

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ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。

 

 冊目は辻村深月さん著「ぼくのメジャースプーン」です。https://www.amazon.co.jp/gp/product/4062763303/ref=oh_aui_detailpage_o00_s01?ie=UTF8&psc=1

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

  辻村深月さんの小説を読むのは何気に今回が初めてだったりします。僕は普段から特定の著者に偏って本を買っているので、これからは著者の名前を見ずに本を買ってみようかと思っています。

 

 

 主人公は小学四年生の、変わった能力を持った少年です。この少年の能力の扱い方を巡って本書は進んでいくのですが、読み進めるほど考えさせられました。特に「大切な人を傷つけた人と、将来どうのような姿勢で関わっていくのか」という点で、主人公となるべく同じ視点に立って悩んでみました。

 難しいです。憎いけれど、その人に仕返しをするような行為は結局同じ悪人であると思いますし、それでも何もせず忘れるよう努めるのも大変な忍耐力を必要とするはずです。

 この少年はどのように向き合うのか、見物でした。

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り)

 

 ・少年の能力

”Aという条件をクリアできなければ、Bという結果が起こる”という、「条件ゲーム提示能力」です。具体的に言うと、相手に対して「お前は今から1時間以内に10キロ走れ(A)、さもなければお前はこの先一生移動する時歩くことができなくなる(B)」と話しかけると、その相手はBという結果が起こることを恐れて全力でAに取り組まなければならなくなる、というわけです。

 人によると思いますが、1時間以内に10キロ走るとなるとなかなか辛い思いをしなければならないと思います。しかし、この先一生歩くことができなくなる、という罰があるとしたならほとんどの人は必死に取り組むと思うのです。それを言霊のように相手に強制させることができる能力です。

  めっちゃいいじゃん、と思いますが、相手は強制されているわけですから、第三者的な相手に対してもそう頻繁に使おうとは思えません。よほど嫌な相手、それこそ大切な人を傷つけたような悪人にしか使わないかもしれません。

 

・少年の答え

  そして実際、少年は悪人に対して能力を使いました。まず、その悪人は、他人や動物、自分、この世の全てがどうでもいいと公言しているような医学生です。そのような相手に一体何を提示すればいいのか。

 少年の出した答えは

「今すぐここで、ぼくの首を絞めろ」(略)「そうしなければ、お前はもう二度と医学部に戻れない」 

 という、命懸けのものでした。犯人が何にも未練がないというなら首を絞めず、じっとしているはず。しかし、犯人は大きくうなずいた後、ためらわずに少年の首を絞めました。

 首を絞めたなら、やはり犯人は医学部に未練があり、しかもこれからは殺人犯として生きなければならない。首を絞めないなら、犯人は二度と医学部には戻れない。どちらを選んでも犯人は損しかしませんが、少年にも危害が及ぶ大変危険な賭けでした。

 結果的に少年は助かったのですが、この選択をした10歳の少年の勇気(というか無謀さ)には驚かされます。

 それだけ、大切な人のことを壊した犯人が憎かったのでしょうが、そのような答えを出した少年を心配をする人たちのことも考えてあげるべきだったのでしょう。

 復讐をしても、それで誰かが救われるわけではない、むしろ悲しむ人の方が多いはずですから。

 

 少年と同じような立場に自分が立っていたら、どのような答えを出すでしょうか。少年と同じように復讐を企てるか、完全に犯人のことを忘れようとするか、また別の方法を取るか…。考えさせられました。

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以上です、ありがとうございました。

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今年はクールビズが1ヶ月早まりましたね、とても嬉しいです。

暑がりな僕としては半年くらいクールビズにしてほしいですが。

30.『色のない島へ』

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先天的に色彩感覚をもたずモノトーンの視覚世界で暮らす人々がいるピンゲラップ島とポーンペイ島。
原因不明の神経病が多発するグアム島とロタ島――脳神経科医のサックス博士はミクロネシアの閉ざされた島々に残る風土病の調査に訪れる。
島の歴史や生活習慣を探るうちに難病の原因に関わる思いがけない仮説が浮かび上がるのだが……。
美しく豊かな自然とそこで暮らす人々の生命力を力強く描く感動の探訪記。

 

30冊目はオリヴァー・サックスさん著「色のない島へ」です。

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4150504261/ref=oh_aui_detailpage_o01_s00?ie=UTF8&psc=1

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

  オリヴァー・サックスさん著で以前読んだ「妻を帽子と間違えた男」(ハヤカワ書房)で、トゥレット症候群や自閉症アルツハイマーの患者たちとのやりとりのエッセイを読み、深く感銘を受けたことをきっかけに本書も買ってみたいと思いました。またそれだけでなく、多くの住民が全色盲の人たちであるという島への探訪記とあって、「いやそれはどんな環境で育った結果なんだろ…」と、とても興味が湧きました。

 

 実際読んでみると、全色盲の方たちは普通に色が判別できる人たちと比べてハンデはあるのですが、逆に優れている部分もあり、僕の見える世界が彼らには見えないが、反対に僕に見えない世界が彼らには見えているのだと知りました。

 

 また、本書の後編では「ソテツの島」をテーマに扱い、二つの島についてのお話が載っています。ソテツは植物であり、食用として食べられていた歴史があるのですが、そのソテツを食用として食べていた地域には多くの脳の病気を患った住民が現れたのです。それが本当にソテツの毒性のものなのかは不明です。しかし、何かしらの関連性はあるのではないでしょうか。

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り)

 

・全色盲でも見える世界

 ”全色盲”の方の目には見えるものすべてがモノクロに見えている、というのは想像できると思います。しかし、正しくは光の強弱で見ているわけです。その光に対しても彼らの目は弱く、日中はまともに外を出歩くことはできません。実際、オリヴァー博士と他二人の同伴者が島に着いたとき、出迎えてくれた全色盲の子供たちは皆太陽の光に目をしばたたいたり、細めたりしていました。

 世の中には全色盲の方のための特別な眼鏡があり、オリヴァー博士の同伴者の一人で島の人と同じく全色盲のクヌートさんも常時しています。

 

 しかし、そんな目が弱い彼らにも僕たちより優れた能力があります。それは、”微かな色の濃淡の違いでさえ判別できる”ことです。色が判別できないと書いた手前、矛盾していると思われるかもしれませんが、もう一度繰り返すと、彼らは世界を”光の強弱”によって見ています。その強弱の違いは、色の微かな違いから生まれる光の強さを判別できるということです。

 実際、島に住む女性が手編みで作ったジャケットは、普通の人が見たら全体が同じ色にしか見えないのですが、彼ら全色盲の人たちには、はっきりとカラフルでおしゃれなジャケットに見えるのです。

 

 

・そもそもなぜこの島(ピンゲラップ島)は全色盲の人の割合が高いのか

  悪名高い太平洋の台風がピンゲラップ島のように海抜わずか一〇フィートにも満たない環礁島に及ぼす被害は甚大である。なぜなら強風にあおられた高波が島全体を水浸しにしてしまうからだ。一七七五年頃にピンゲラップ島を襲ったレンキエキ台風のときは、島民の九〇 パーセントが犠牲となり、それに続く飢餓により、生存者のほとんども苦しみながら死んでいった。(略)

 それでも生き残ったピンゲラップの人々はその後人口を増やし、何十年かたつと島の人口は一〇〇人近くを数えるまでになった。しかしそれに伴って近親婚が増えたため、今度は別の問題が生まれた。それ以前は稀にしか見られなかった疾病の遺伝子が広がりをみせ、(略)

  この疾病が視覚障害のことであり、このときから全色盲の島民が増えていきました。また、島にそのような疾病を治療できる環境も無く、常駐している医者はいるのですが、やはり島を出て大きな病院で治療をするという道しか残されていません。それでも島民は日々楽しく生活しているのですから、それを不幸だというのは違うのでしょう。

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 以上です、ありがとうございました。

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最近グミをよく食べています。今まであまり食べていなかったのですが、なんかはまってしまいました。おすすめはピュレグミです。

 

29.『八日目の蝉』

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逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。

 

 

29冊目は角田光代さん著「八日目の蝉」です。https://www.amazon.co.jp/gp/product/4122054257/ref=oh_aui_detailpage_o01_s00?ie=UTF8&psc=1

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

  「偽りの母子」というのはその名の通り本当の親子ではないということです。読む前は、致し方ない事情があってそのような関係になってしまったのかと思っていたのですが…違いましたね。そりゃ逃げるよねと。

 しかし、偽物の母子であるはずなのに、物語を読んでいくにつれ、本物の母子としか思えない関係を築き上げていくこの親子にはとても惹きつけられました。

 

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②気になった点(※ネタバレ有り)

 

・偽物の母子

 前半の一人称視点は、他人の赤ちゃんを誘拐した女性、希和子です。誘拐した子供には薫と名付け、自分の子供として育てることを決意します。ただし、逃亡生活を続けながら。

 友人の家へ、立ち退きでほとんど人がいない町に住む老婆の家へ、俗世の情報がほとんど入ってこない宗教団体へ、宗教団体で共に生活していた女性の故郷の島へ…多くの場所を転々としながら、それでも薫が不自由なく暮らせるように必死に生活費を稼ぎ、ずっと捕まるかもしれないという不安と闘う希和子は、誘拐犯であるということを考慮しても応援してしまいます。

 薫の本物の両親は共に性格に難があり、その両親に育てられるより希和子に育てられた方が薫も幸せなのではないかと思いました。もちろん希和子は誘拐犯であり、どうしようもなく犯罪者です。それでも希和子の薫に対する愛情は本物でした。それだけは覆しようもない事実です。

 

・薫のその後の人生

 逃亡を続けていた希和子でしたが、祭りのときに偶然カメラマンに撮られた写真がコンテストの賞を取ってしまい、全国に現在の状況が知れ渡ることになり、とうとう薫と引き剥がされる時がきてしまいました。

 その後、薫(本名は恵理菜)は本物の家族の元に戻されるのですが、急に家族として生きることになった恵理菜を家族はどう受け止めたらいいのか分かりません。両親とのすれ違いはずっと続き、恵理菜は大学生になると同時に独り暮らしを始めます。

 両親は恵理菜との生活にずっと苦しい思いをしていたので、一人暮らしを始めることは恵理菜にとっての気遣いもあったかもしれません。

 しかし、恵理菜は偽物の母親である希和子と似ていました。自分と不倫している30歳近い男との子供を身籠ってしまったのです。実は希和子も恵理菜父親と不倫をしており、希和子の場合は身籠った子供を中絶しています。しかし、恵理菜は産むことを決意するのです。それは希和子と同じような人生を辿りたくないという思いもあったのかもしれません。他にも理由はあるのですが、ここでは省かせていただきます。

 

 家族から離れ、産むと決意した場所は、かつて過ごしたあの島です。幼いころ過ごした場所はやはり忘れず記憶に刻まれていました。その島にフェリーで渡る待合場所で、服役していて出所したばかりの希和子がいました。恵理菜は彼女に背を向けた場所に座っており、希和子も成長した恵理菜は見分けがつきません。それでも希和子はなぜか彼女の後ろ姿に懐かしい感じを覚え、遠くから声をかけるのです。

 最終的にお互い気づくことはなかったのですが、最後に成長した薫の姿を見られた希和子はどこか救われたのではないでしょうか。最後まで育て上げられなかった負い目や、中途半端な思い出を残したまま消えた自分に対する怒りなどがあるのではないかと心配していたかもしれません。

 それでもしっかりと大人になった薫は、自身の決意に動かされ生きています。それは、親としてはとても嬉しいことだと思うのです。僕はまだ親じゃないですけど、自分の意思を大事にする人は尊敬しますし、そういう子供になってほしいです。

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以上です、ありがとうございました。

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ゴールデンウェークになり、まとまった時間が取れたので更新しました。新年度になったばかりの頃は忙しいと思うのですよ(言い訳)

 

26.27.28『塩の街』『空の中』『海の底』

塩の街

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女、秋庭と真奈。世界の片隅で生きる2人の前には、様々な人が現れ、消えていく。だが―「世界とか、救ってみたくない?」。ある日、そそのかすように囁く者が運命を連れてやってくる。

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「空の中」

200X年、謎の航空機事故が相次ぎ、メーカーの担当者と生き残った自衛隊パイロットは調査のために高空へ飛んだ。高度2万、事故に共通するその空域で彼らが見つけた秘密とは?一方地上では、子供たちが海辺で不思議な生物を拾う。大人と子供が見つけた2つの秘密が出会うとき、日本に、人類に降りかかる前代未聞の奇妙な危機とはーすべての本読みが胸躍らせる、未曾有のスペクタクルエンタテインメント。

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「海の底」

4月。桜祭りで開放された米軍横須賀基地。停泊中の海上自衛隊潜水艦『きりしお』の隊員が見た時、喧噪は悲鳴に変わっていた。巨大な赤い甲殻類の大群が基地を闊歩し、次々に人を「食べている!」自衛官は救出した子供たちと潜水艦へ立てこもるが、彼らはなぜか「歪んでいた」。一方、警察と自衛隊、米軍の駆け引きの中、機動隊は凄絶な戦いを強いられていくージャンルの垣根を飛び越えたスーパーエンタテインメント。

https://www.amazon.co.jp/%E6%B5%B7%E3%81%AE%E5%BA%95-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%9C%89%E5%B7%9D-%E6%B5%A9/dp/4043898029/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1522752553&sr=8-1&keywords=%E6%B5%B7%E3%81%AE%E5%BA%95

 

26,27,28冊目は有川浩さん著「塩の街」「空の中」「海の底」です。

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全体の感想(※細かい感想は今回述べません。ネタバレ有り)

 

 三作とも再読です。と言っても読んだのが8年くらい前なので、ほぼ初見ですね。それでも大まかなストーリーは覚えていたのですが、初見のときとほぼ同じ楽しみを持って読了できたと思います。

 

 この三作は、有川浩さんの自衛隊三部作と呼ばれており、「塩の街」で陸自、「空の中」で空自、「海の底」で海自が主に活躍します。全ての作品で自衛隊のカッコよさがとても伝わるものとなっており、最初自衛隊の知識を全く持っていなかった僕は、読了後に自衛隊についてネットで調べたりしました。階級とかそれに伴う階級章とか見て「カッケーなぁ」なんて思ったりして。

 因みに一番好きなのは空自です。「ブルーインパルス」などご存知の方もいるかと思いますが、名前からしてもうカッコいい。you〇ubeなどの動画サイトで見ることができるので、是非。

 

 脱線しましたが、そんな自衛隊に焦点を当て、なおかつ恋愛要素を含ませた作品になっています。

 

 塩の街では塩害と呼ばれる、人が塩になる病気の中で、少女を守るために死ぬ覚悟を持ったパイロットの青年と、世界が壊れてもそれでも彼だけは死んでほしくないと願う少女の物語です。青年は空自ですが、青年と少女の周りにいる人々のほとんどは陸自の人々です。

 塩害は人が塩になる病気と書きましたが、意識のあるうちから肌から徐々に塩が吹き始め、体が硬くなっていき、自分の死期が目に見えて分かるのです。死ぬ直前になると、叩くだけ腕が取れるくらい脆くなります。怖すぎませんか。そんな世界で生きる人々の恐怖の心が伝わってきて読んでいて辛くなる時もありましたが、それでも共に生きようとする青年と少女の人生は応援し続けたくなります。

 

 「空の中」では高度二万メートルという極地に存在する、太古から生きる未確認生物との接触から始まります。

 接触というのは、会うというだけでなく、物理的に空自のパイロットが載っていた航空機がその未確認生物(超巨大)にぶつかり大破することでもあります。

 命を失ったパイロットの男性の息子と、日本産の航空機を製造している会社に勤める青年が主人公で、二人の視点から物語は進みます。

 そして、男性の息子は幼馴染の少女と、青年は空自の女性パイロットとの恋が発展していくのですが、どちらの女性も男性陣より逞しく、「なんだこのカッコいいヒロイン達は(笑)」と思わず呟いてしまいました。

 カッコいい女性とカッコいい空自が両方楽しめてお得ですね!

 

 

 「海の底」では巨大化した甲殻類(通称:サガミ・レガリス)が餌を求めて日本の相模湾に上陸し、逃げ遅れた子供たちと、彼らを助けようと潜水艦の中に逃げさせた海自の二人の青年の、辛い生活が書かれています。  

 食料は十分な蓄えがあったとはいえ、ニュースでは自分たちのいる潜水艦の周りを這いまわる巨大な甲殻類が映し出され、子供たちの中には問題を抱えた者が数人おり、不安にならずにはいられません。そして子供たちを助けるためにレガリスに命を奪われた上司をもつ海自の青年二人。

 精神が擦り減る中で、それでも上司が命を懸けて救った子供たちを無事に親もとへ返すため、涙を流すことも堪えて奔走する青年の姿を読んでいると、自然と応援したくなります。

 

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 この三作をデビューした間もない時期に書いた有川浩さんには尊敬します。以上です、ありがとうございました。

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 昔無かった感性を持って読むとまた違った面白さがあると思うのです。ということで、しばらくは昔読んだことがある本を再読していこうかと思います。

 そして、四月になりましたね。新しいづくしの毎日が始まりますが、関係ありません。いつも通りの自分でいるだけです。

 因みに僕の座右の銘は”なんとかなる”です。考えていても行動しなければ意味がないし、やってみれば案外うまくいくものです。考えすぎず、証拠もないし不安はあるけど、「まぁなんとかなるでしょ」と思って取り組むことにしています。なんとかならないものは無いと思って生きています。バカみたいですが、僕はこの考え方が好きです。どうでしょう。

25.『残像に口紅を』

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「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。愛するものを失うことは、とても哀しい……。

言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。

 

 25冊目は、筒井康隆さん著「残像に口紅を」です。

https://www.amazon.co.jp/%E6%AE%8B%E5%83%8F%E3%81%AB%E5%8F%A3%E7%B4%85%E3%82%92-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%87%E5%BA%AB-%E7%AD%92%E4%BA%95-%E5%BA%B7%E9%9A%86/dp/4122022878/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1521700797&sr=1-1&keywords=%E6%AE%8B%E5%83%8F%E3%81%AB%E5%8F%A3%E7%B4%85%E3%82%92

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

 

 2017年秋に放送されたテレビ番組「アメトーーーク!」の読書芸人の回で紹介された小説です。他にも何冊か紹介されていたのですが、中でもこの本の紹介内容が気になったので購入しました。

 その内容というのが、小説内で使える50音が徐々に減っていくんです。

 例えば、「あ」が消えれば「愛」や「あなた」のような「あ」が含まれる言葉が使えなくなり、小説の物語からも「あ」が含まれるものが消えるのです。もう一つ例を言うと、「れ」が消えれば「冷蔵庫」や「彼」や「れ」が名前に含まれる名前の人も消えます。

 

 なので本当に「実験的小説」というジャンルが似合うものだと思いました。そして今までこういう形の本を読んだことがなかったので、いつものとは違う面白さを持って最後まで読むことができました、新鮮。

 

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り)

 

・家族

 主人公の津田得治は大学の助教授であり、小説家でもあるのですが、彼には妻と三人の娘がいます。しかし、この世界では50音が徐々に消えるのと同時に、その音が名前に含まれる人物も消え、記憶からも消えていくのです。それはこの家族にも当てはまり、まず娘の一人が消えます。消えると、三人いたはずの娘は元々二人しかいなかったことになり、皆の記憶からも消えてしまいます。しかし、その消えた娘が使っていた部屋や持ち物はそのまま残るので、なんとなく違和感を覚えるのです。この状況は主人公と他数人しか知らないので、主人公は「確かに娘がもう一人いたのだろう」と察せるのですが、他の娘や妻は謎の違和感が残ったまま過ごすことになります。

 何が起きているのか分からない者からしたら、この状況は不気味ですよね。リアルの世界なら確実にあり得ないことですし、すごく気持ち悪いと思います(笑)。

 読者としては、皆の記憶から知れず消えてゆく人が増えていくのは哀しいものです。

 

・ラストにかけて

 最後の方になると使える言葉がほとんどなくなってしまうので、もう物語として成り立たせるのもかなり難しい状況になるわけです。「す」や「だ」が使えなくなると、語尾がかなり限定されてきますからね。「~です」や「~だ」で終われないんですよ、厳しいですよね。ですが、そこは著者、筒井康隆さんの執筆力と語彙力の為せる業なのでしょう、小説の本当ぎりぎりまで物語が読み取れるのです。普段目にすることのないような言葉や言い回しも多く使われており、尊敬せざるをえません。

 ただ、それでもかなり遠回しの言い方になってくるので、読者側にもある程度の理解力が求められてきます。ただ著者の苦労に比べたら微々たるものなので、全然我慢できました。

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 このような実験的小説を今後も読めたらと思います。

以上です、ありがとうございました。

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この時期は花粉で目と鼻がやられてまともな生活ができません、辛いです。毎年スギに対する憎しみが渦巻きます。