25.『残像に口紅を』
「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。愛するものを失うことは、とても哀しい……。
言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。
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①全体の感想(※ネタバレ無し)
2017年秋に放送されたテレビ番組「アメトーーーク!」の読書芸人の回で紹介された小説です。他にも何冊か紹介されていたのですが、中でもこの本の紹介内容が気になったので購入しました。
その内容というのが、小説内で使える50音が徐々に減っていくんです。
例えば、「あ」が消えれば「愛」や「あなた」のような「あ」が含まれる言葉が使えなくなり、小説の物語からも「あ」が含まれるものが消えるのです。もう一つ例を言うと、「れ」が消えれば「冷蔵庫」や「彼」や「れ」が名前に含まれる名前の人も消えます。
なので本当に「実験的小説」というジャンルが似合うものだと思いました。そして今までこういう形の本を読んだことがなかったので、いつものとは違う面白さを持って最後まで読むことができました、新鮮。
②気になった点(※ネタバレ有り)
・家族
主人公の津田得治は大学の助教授であり、小説家でもあるのですが、彼には妻と三人の娘がいます。しかし、この世界では50音が徐々に消えるのと同時に、その音が名前に含まれる人物も消え、記憶からも消えていくのです。それはこの家族にも当てはまり、まず娘の一人が消えます。消えると、三人いたはずの娘は元々二人しかいなかったことになり、皆の記憶からも消えてしまいます。しかし、その消えた娘が使っていた部屋や持ち物はそのまま残るので、なんとなく違和感を覚えるのです。この状況は主人公と他数人しか知らないので、主人公は「確かに娘がもう一人いたのだろう」と察せるのですが、他の娘や妻は謎の違和感が残ったまま過ごすことになります。
何が起きているのか分からない者からしたら、この状況は不気味ですよね。リアルの世界なら確実にあり得ないことですし、すごく気持ち悪いと思います(笑)。
読者としては、皆の記憶から知れず消えてゆく人が増えていくのは哀しいものです。
・ラストにかけて
最後の方になると使える言葉がほとんどなくなってしまうので、もう物語として成り立たせるのもかなり難しい状況になるわけです。「す」や「だ」が使えなくなると、語尾がかなり限定されてきますからね。「~です」や「~だ」で終われないんですよ、厳しいですよね。ですが、そこは著者、筒井康隆さんの執筆力と語彙力の為せる業なのでしょう、小説の本当ぎりぎりまで物語が読み取れるのです。普段目にすることのないような言葉や言い回しも多く使われており、尊敬せざるをえません。
ただ、それでもかなり遠回しの言い方になってくるので、読者側にもある程度の理解力が求められてきます。ただ著者の苦労に比べたら微々たるものなので、全然我慢できました。
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このような実験的小説を今後も読めたらと思います。
以上です、ありがとうございました。
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この時期は花粉で目と鼻がやられてまともな生活ができません、辛いです。毎年スギに対する憎しみが渦巻きます。