安息の本棚

本を読了した後の自分の感想を残しておきたいと思い立ち、このブログを始めました。                           コメントに関する返答は仕様上できないようですが、ありがたく拝見させていただいております。Twitterもやってます。 @teruhiro_tose

29.『八日目の蝉』

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逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか…。東京から名古屋へ、女たちにかくまわれながら、小豆島へ。偽りの母子の先が見えない逃亡生活、そしてその後のふたりに光はきざすのか。心ゆさぶるラストまで息もつがせぬ傑作長編。第二回中央公論文芸賞受賞作。

 

 

29冊目は角田光代さん著「八日目の蝉」です。https://www.amazon.co.jp/gp/product/4122054257/ref=oh_aui_detailpage_o01_s00?ie=UTF8&psc=1

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

  「偽りの母子」というのはその名の通り本当の親子ではないということです。読む前は、致し方ない事情があってそのような関係になってしまったのかと思っていたのですが…違いましたね。そりゃ逃げるよねと。

 しかし、偽物の母子であるはずなのに、物語を読んでいくにつれ、本物の母子としか思えない関係を築き上げていくこの親子にはとても惹きつけられました。

 

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②気になった点(※ネタバレ有り)

 

・偽物の母子

 前半の一人称視点は、他人の赤ちゃんを誘拐した女性、希和子です。誘拐した子供には薫と名付け、自分の子供として育てることを決意します。ただし、逃亡生活を続けながら。

 友人の家へ、立ち退きでほとんど人がいない町に住む老婆の家へ、俗世の情報がほとんど入ってこない宗教団体へ、宗教団体で共に生活していた女性の故郷の島へ…多くの場所を転々としながら、それでも薫が不自由なく暮らせるように必死に生活費を稼ぎ、ずっと捕まるかもしれないという不安と闘う希和子は、誘拐犯であるということを考慮しても応援してしまいます。

 薫の本物の両親は共に性格に難があり、その両親に育てられるより希和子に育てられた方が薫も幸せなのではないかと思いました。もちろん希和子は誘拐犯であり、どうしようもなく犯罪者です。それでも希和子の薫に対する愛情は本物でした。それだけは覆しようもない事実です。

 

・薫のその後の人生

 逃亡を続けていた希和子でしたが、祭りのときに偶然カメラマンに撮られた写真がコンテストの賞を取ってしまい、全国に現在の状況が知れ渡ることになり、とうとう薫と引き剥がされる時がきてしまいました。

 その後、薫(本名は恵理菜)は本物の家族の元に戻されるのですが、急に家族として生きることになった恵理菜を家族はどう受け止めたらいいのか分かりません。両親とのすれ違いはずっと続き、恵理菜は大学生になると同時に独り暮らしを始めます。

 両親は恵理菜との生活にずっと苦しい思いをしていたので、一人暮らしを始めることは恵理菜にとっての気遣いもあったかもしれません。

 しかし、恵理菜は偽物の母親である希和子と似ていました。自分と不倫している30歳近い男との子供を身籠ってしまったのです。実は希和子も恵理菜父親と不倫をしており、希和子の場合は身籠った子供を中絶しています。しかし、恵理菜は産むことを決意するのです。それは希和子と同じような人生を辿りたくないという思いもあったのかもしれません。他にも理由はあるのですが、ここでは省かせていただきます。

 

 家族から離れ、産むと決意した場所は、かつて過ごしたあの島です。幼いころ過ごした場所はやはり忘れず記憶に刻まれていました。その島にフェリーで渡る待合場所で、服役していて出所したばかりの希和子がいました。恵理菜は彼女に背を向けた場所に座っており、希和子も成長した恵理菜は見分けがつきません。それでも希和子はなぜか彼女の後ろ姿に懐かしい感じを覚え、遠くから声をかけるのです。

 最終的にお互い気づくことはなかったのですが、最後に成長した薫の姿を見られた希和子はどこか救われたのではないでしょうか。最後まで育て上げられなかった負い目や、中途半端な思い出を残したまま消えた自分に対する怒りなどがあるのではないかと心配していたかもしれません。

 それでもしっかりと大人になった薫は、自身の決意に動かされ生きています。それは、親としてはとても嬉しいことだと思うのです。僕はまだ親じゃないですけど、自分の意思を大事にする人は尊敬しますし、そういう子供になってほしいです。

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以上です、ありがとうございました。

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ゴールデンウェークになり、まとまった時間が取れたので更新しました。新年度になったばかりの頃は忙しいと思うのですよ(言い訳)