安息の本棚

本を読了した後の自分の感想を残しておきたいと思い立ち、このブログを始めました。                           コメントに関する返答は仕様上できないようですが、ありがたく拝見させていただいております。Twitterもやってます。 @teruhiro_tose

13.『何者』

 

f:id:raito-se:20171130200118j:plain

 

 

 「就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから───。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。」

 

 13冊目は朝井リョウさん著「何者」です。

 

今回は長めです。

________________________________

 

 

①全体の感想(※ネタバレ無し)

 まず初めに言わせてもらうと、かなり面白かったです。ほとんど止まらずに読んでしまい、読み終わった後思わず「なんだこれ面白っ(笑)」って感想が出てきました。話の流れからラストの結末まで完全に自分好みでしたね。

 

 登場人物は就活を迎えた大学生たちで、それぞれが就活対策をしていく中で、自意識であったり、本音であったりが、SNSなどを通じて悪い意味で伝達していく様がとてもリアルに書かれていました。

 

 自分が就活をしていた時の記憶も蘇ってきて、まさにこの本の登場人物の思っているようなことを体験したなと思い返していました。それもあってか、続きが気になって仕方なかったです。

 

 

 

②気になった点(ネタバレ有り)

 

・観察力

 話の視点は元劇団員の「拓人」であり、彼が就活仲間との会話の中で感じたことがその時々で詳細に書かれています。仲間からも時折「観察力がすごい!」と言われていますが、この本を書いている朝井リョウさんの人間に対する観察眼がとても優れているのだなと感じました。あまり小説を読んでいるときに著者のことを考えるのは避けているのですが、こればっかりは……(笑)

  

 

・現実とSNS上での自分

 タイトルにもなっている「何者」。この意味は読了した後に分かるのですが、主人公の「拓人」は、他の人とは違う「何者」かになりたがっていたのです。他の人には無い何かを持っている者、優れている何かをもっている者、そういった自分の中での理想とする「何者」に憧れていたのです。

 就活をするため、そして他人から高い評価を得るためにインターンや、留学、語学力、人脈を前面に出しSNS上でもアピールしている人を批判的に観察し、自分はそんな人たちを冷静に見ることができるという自負を持ち、違う視点を持ちながら就活を成功させようとしているのです。

 

 そんな拓人も結局他人とは変わらず、「何者」になることはできません。その事実は同じ就活仲間である「理香」から語られるのですが、この理香の言葉は僕自身にもかなり響きました。鳥肌がすごかったです(笑)。

 

 

・サワ先輩と理香の言葉

 まずはサワ先輩から

 サワ先輩は拓人のバイト先の先輩で、同じく就活生ながら院の推薦で就職はほぼ決まっています。

 そんなサワ先輩が、拓人が自身の知り合いである「ギンジ」と「隆良」の二人のことを似ている、と発言したことに対して語った言葉がグッときました。

 長くなるので割愛しますが、実際読んでみてください。すみません。

 

 

 次に理香

理香はまさに上で書いたような自分の留学経験や語学力をアピールし就活をしている大学生なのですが、彼女のセリフ

「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ。だから私だって、カッコ悪い自分のままインターンしたり、海外ボランティアしたり、名刺作ったりするんだよ」

 

 自分は留学してもインターンしても理想の自分にはなれなかった。加えて就職が決まった友人の会社の評判を調べて、そこがブラックだと知ると安堵したり、人のアドレスからツイッターのアカウント探したり。そんなカッコ悪い自分を認めてなお、必死にあがくのだと。あがく以外に選択肢が無いから。

 もっと話は長いのですが、だいたいこんな感じです。

 この部分を読んだとき、衝撃が走りました。僕も拓人と同じような立場から人を見てしまうときがあったので(別に観察力はありませんが(笑))、価値観が変わったかもしれません。いい意味で。

 

 

 

________________________________

 

以上です、ありがとうございました。

 

 

もう冬ですね。僕の天敵、乾燥が徐々に迫ってきています。というか既に蝕まれつつあります。