安息の本棚

本を読了した後の自分の感想を残しておきたいと思い立ち、このブログを始めました。                           コメントに関する返答は仕様上できないようですが、ありがたく拝見させていただいております。Twitterもやってます。 @teruhiro_tose

18.『夜のピクニック』

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 「高校生活最後を飾るイベント「歩行祭り」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために───。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。」

 

18冊目は恩田陸さん著「夜のピクニック」です。

 

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

  北高の伝統行事「歩行祭り」は、朝の8時から翌日の朝8時、つまり丸一日かけて80キロの道のりを全校生徒でただひたすら歩くものなんですが

 辛すぎるでしょ

 

 しかし歩き終わった後、「楽しかった」と感想を漏らす生徒がいるのです。

 それは、太陽が昇っているときでしか話さない人たちと夜を徹し語り尽くすことができたり、80キロを仲間と共に歩き通す連帯感からくるのではないでしょうか。

 学校祭や合唱コンクール、遠足、修学旅行なんてものは大勢の友達とやるからこそ、面倒くさかったり辛かったりしても、最終的には「楽しかった」と言えますし。加えて「高校生活最後の」っていうとさらに特別感が増しますね。

 

 そんな歩行祭中に甲田貴子と西脇融を中心に起きる、(一風変わった)青春の物語でした。

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り) 

 

・貴子と融の関係の解消

  この二人は異母兄弟で、貴子の母と融の父が浮気したことでこのような関係になりました。

 同じ高校でありながらお互い避けつつ(主に融が貴子に対して嫌悪感を持っており)高校生活をを過ごしてきたわけですが、3年生のときに偶然同じクラスになり、それでも卒業するまで一度も会話せずにいようと決めていました。

 しかし貴子は、「歩行祭で融に話しかけて何かしらの返事をもらう」という小さな賭けを自らに課し、「その賭けに勝ったら、今の関係を解消するために融に働きかける」ことにしていました。

 

 そして貴子はその賭けに勝ち、歩行祭中に二人で話す機会を作り、いつかお互いの家に行く約束をすることに成功します。

 

 初めて話したのに、今までも話したことのあるような不思議な感じです。なんといっても二人は同じ血が通った兄弟です。言葉では表せない何かがそうさせるのでしょう。

 

  僕にも兄弟がいて今はそんなに会う機会は無いのですが、久しぶりにあっても最近あったかのような感じで、自然体でいることができます。不思議です。貴子と融のようなややこしい関係では無いですけどね(笑)。

 

 

・貴子と融の友達

 貴子の親友である杏奈と融の親友である忍は、お互いに気が利く性質で、読書中も「なんていいやつらだ」と思っていました。二人のことについて書き出すと長くなるので割愛します、すみません。

 ただ杏奈に関しては「いやそこまで気が利きすぎると未来予知でもしてるのか」とツッコんでしまいましたけど。一年後の歩行祭を見据えて貴子と融の関係の解消のために仕組んでいるのはちょっと…。まぁあくまで貴子の予想なんで、確実にそのためにしたかは謎ですが。

 

 とにかくこんな友達想いの人たちが自分の友達なら、学校生活も充実するんじゃないかと思います。

 

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以上です、ありがとうございました。

 

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今年の心残りは読書時間をうまく作れなかったことです。

2018年はより多くの本を読みたいです。

17.『桐島、部活やめるってよ』

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 「田舎の県立高校。バレー部の頼れるキャプテン・桐島が、理由も告げずに突然部活をやめた。そこから、周囲の高校生たちの学校生活に小さな波紋が広がっていく。バレー部の補欠・風助、ブラスバンド部・亜矢、映画部・涼也、ソフト部・実果、野球部ユーレイ部員・宏樹。部活も校内での立場も全く違う5人それぞれに起こった変化とは……? 瑞々しい筆致で描かれる、17歳のリアルな青春群像。」

 

17冊目は朝井リョウさん著「桐島、部活やめるってよ」です。

 

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

 

  数年前に映画化して話題になっていた本なのですが、実は敬遠していました。話題に上がったものは時間が経ってから気になる性分なんです。

 しかし、以前朝井リョウさんの「何者」を読んでから、朝井さんの別の本は何かないかと探して本書に巡り会い、読むことにしました。

 

 今にして、早く読んでおきたかったと思いました。

  大人になるにはまだ未熟な、高校生の生々しい感情の微細な動きを、ここまでリアルに書き上げられたものに感心してしまいました。

 僕が高校生の時(何年前だろうか…)に実際起こったこと、思っていたことが本書に載っていたりしたときは、ハッとさせられました。あれはこういうことだったのかと。こういう心の機微があったからこそなのかと。

 しかも、本書を書き上げた朝井さんは当時20歳にもなっていない頃だったそうですね。その歳でこの心理描写を書き上げるとは…驚きました、脱帽です。

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り)

今回は一つ

スクールカースト

 簡単に言えば、学生間における、自分の存在している地位のことですよね。クラスの中心になっていたりする人は高い、逆に教室の隅で目立たない存在の人は低い、みたいな。このスクールカーストを学生の間は常に意識して行動しなければならないという謎の圧力があり、自分は地位が低いからなるべく邪魔にならないようにしておこうとか、自分は地位が上だから少しはしゃいでも許されるだろうとか、その地位に許される言動があったりするんですよね。

 体育でも、教室内でも、人間関係でも。

 全くもってくだらないんですけど、意識しなければならない。

 

 本書にもそれが存在し、心が疼きました。

  映画部に所属する涼也は特に目立つ存在ではなく、カーストは低い位置にいます。

 映画の撮影材料として部員たちと一緒に運動部などに写真を撮りいくと、その運動部の人たちからはあまりいい目では見られません。全校集会で学生映画の特別賞を受賞して表彰されても、映画のタイトルを読まれただけで吹きだす生徒もいる。体育でボールを渡されて上手く繋げなくても、避難されず話題にすら上がらない。

 それでも、部員や理解ある人と映画の話をして、部活で実際に映画を作っているときの彼は誰よりも輝いて、楽しそうなんです。カーストとか関係なく、この学生生活を最も謳歌しているのは間違いなくそんな彼です。

 

反対に、クラスの地位が高く、常に目立つ存在である宏樹は野球部のユーレイ部員です。昔からだいたいのことはこなせるし、野球も練習せずともある程度は上手かったりします。そのせいか、野球部もさぼり、顔だけで選んだような彼女や友達と放課後遊んだりした生活をしています。

 そんな宏樹は、ある放課後、涼也ともう一人の映画部員の武文がバドミントン部の撮影をしているのを見かけました。

 きっとレンズの向こうに映るバドミントン部の姿は、この目で見るよりも遥かに美しい。だけど、そのレンズを覗く映画部ふたりの横顔は、

 ひかりだった。

 ひかりそのもののようだった。

 好きなことに熱中できる二人がまぶしいほどに輝いて見えたのでしょう。それから宏樹は、野球部の部活に足を運ぶのですが、この下りは本書を見てほしいです。僕の言葉では上手く表せません。

 

 地位が高く、見た目にも気を使ってカッコよく、あるいは可愛く見せ、目立つ人たちと暮らす人

 地位が低くても、涼也みたく仲間たちと自分の好きなものに熱中している人

 

 どちらに憧れるでしょうか。

 

 

・桐島は…?

 タイトルに「桐島」と入っているくらいなので、桐島自身の心境も明らかになると思ったのですが、なんと作中に桐島は名前だけの登場でセリフも心情もほとんど書かれていませんでした。

 「えっ?桐島なんで部活やめたの?」って読み終わった後考えたんですけど、結局謎のままで…(笑)

 レビューとか見てても桐島について知りたかったという意見が多く、かくいう僕もなぜ突然桐島は部活をやめたのか分からず、もやもやします。

 なんとな~くは伝わってくるんですが、これは読者の想像に任せるというやつでしょうか。気になります。

 

 

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以上です、ありがとうございました。

 

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2017年がもう終わりますね。

今年は年越しそばを食べたいですが、炭水化物が気になるところです。 

16.『新版 うつ病をなおす』

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16冊目は野村総一郎さん著「新版 うつ病をなおす」です。

 

本書は8章で構成されています。(以下記載)

1章 うつ病の症状と診断

2章 メランコリー型うつ病

3章 現代うつ病

4章 特殊なタイプのうつ病

5章 うつ病との鑑別が必要な病気

6章 治療メニュー

7章 うつ病にかからないための考え方改造法

8章 うつ病はなぜ生じるのか

 

 

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

 「現代うつ病」と言われるものが2000年代頃から増えていることは知っていたのですが、実際うつ病に関する知識は何も持ち合わせておらず、これは知っておくべきなのでは! と思い本書を購入しました。

 

 実際専門用語とかばんばん出されたら投げ出す気負いで読み始めたんですが、自分の持っている知識でスイスイ読むことができ(多少専門用語はありましたが)、最低限の知識は獲得できたのではないかと思います。

 

 例えば、うつ病によく使われる薬(抗うつ薬など)や、うつ病にならないための考え方や、そもそもなぜうつ病は生じるのかについてある程度詳しく理解することができました。

 

 今を生きる身として、心は常に健康で在り続けようと思いました。

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り)

 

・単にうつ病と言っても

 今までの知識だと「現代うつ病と言われるものが有るからには、もう1つくらい古いものがあるんだろう」くらいの浅はかな考えしか持っていなかったのですが、思ったより種類があるんですね。

列挙してみると

 

メランコリー型うつ病、現代うつ病、気分変調症、非定型うつ病

仮面うつ病、子供のうつ病、マタニティーブルー、季節性うつ病、老年うつ病

 

こんなもんですか

うつ病と言ってもそれぞれ症状に違いがあり、精神科医の方でも見分けが難しいんだそうです。

また、うつ病のように見えて実は鑑別の難しい別の心の病ということも存在するので、治療にはかなりの注意が必要になりますね。少しでも自分自身が、また周りの人がおかしいと思ったら、己で考えるのではなく、精神科医の方に相談すべきだと思いました。

 

ただ、うつ病に関する治療基準は徐々に整いつつあり、治療のバリエーションが増えた(言い換えれば、治療法を選ぼうとするときのメニューが多くなった)そうです。うつ病に関する研究は各国で盛んに行われており、その結果です。

 うつ病の病態生理は現段階では未解明ですが、少しでも人を救える道筋が増えるとうれしいですよね。

 

 

うつ病にかからないために

 うつ病にかかりやすい人の特徴というものがあるんですが、前述したメランコリー型うつ病と現代うつ病を見てみると

メランコリー=自罰的、几帳面、人のために、清く正しく、真面目、儒教的価値観

現代=他罰的、こだわる、自己のため、自分らしく、説得力多、西欧的合理性

こんな感じです。

真反対じゃありません?これ。

 実際これらの条件が多く当てはまったとしても、周りの環境が強く作用しない限りうつ病には発展しないので、まぁそこまで怯えることはないんですけど。

 

 その中で僕がこれは良い考え方だなと思ったのは

[あなたの捉え方は完璧に正確とは限らない]

[他の考え方もある]

 

  この2つです。つまり、頑固にならずに、柔軟な思考で物事に対処していくことがとても大切だと感じました。

 実際、以前の僕は物事に関してまぁまぁ頑固で、周りの意見は聞いてもあまり取り入れることはせず、それによってイライラしたり、上手くいかないときは全てただ自分の実力不足だと自傷していた節があります。思い返せばあまり心は健康ではなかった気がします。

 年を重ねるにつれてそれはなくなっていったのですが、自分の考えを過信しすぎず、柔軟に対応していくことを念頭に置いて他人と接して生きたいですね。

 

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以上です、ありがとうございました。

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この記事を書いた段階で既に次に書く予定の本は読み終わっています。

はよ書けってね。

 

15.『夜は短し歩けよ乙女』

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 「「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、下鴨神社の古本市、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。けれど先輩の想いに気づかない彼女は、頻発する”偶然の出逢い”にも「奇遇ですねえ!」と言うばかり。そんな2人を待ち受けるのは、個性溢れる曲者たちと珍事件」の数々だった。山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞2位にも選ばれた、キュートでポップな恋愛ファンタジーの傑作!」

 

 

15冊目は森見登美彦さん著「夜は短し歩けよ乙女」です。

 

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①全体の感想(ネタバレ無し)

 黒髪の乙女と先輩、二人の視点から交互に物語は進行していくのですが、二人の心の声がたまに読者に語りかけているところが多く、こういうのあまり無いなーなんて思いながら読んでました。

 先輩は黒髪の乙女に振り向いてもらうために必死になるのですが、彼自身の性格に少し問題があります。ですが、そんなでも自分の愛を伝えようと奔走する姿は、徐々にカッコいいのかな?と思わせてくれます。

 

 他の登場人物にも癖が強い人が多いのですが、その「癖の強さ」がすごいというか、度が過ぎるだろ!と言うくらいです(笑)。結構な数のキャラがいますが、読み終えて数日たった今でもほとんどしっかり覚えていますね。

 

 

②気になった点 (※ネタバレ有り)

 

 ・黒髪の乙女と先輩

  先輩は、心の中で思っていることとか乙女がいないところだと、中々のものです。悪い意味で。ソフトクリームを食べていた子供にぶつかったときはその子供に毒づいたり、演劇の最後の演目のトリを奪ったり、その他色々…。

 実際読み始めたときは「この先輩と乙女は最終的に仲良くなるんだろうけど、くっついてほしくないなー」なんて思っていました。でも読み進めていくと、この先輩の乙女に対する愛情は結構な重さであることが分かってきて、応援したくなりました。乙女の求める絵本を手に入れるためにあつあつ鍋を食べ続けたり、なるべく彼女の目に入るように情報を収集し、その場に偶然を装って居合わせたりです。

 その努力、確かなものです(上から目線)。

 

 黒髪の乙女は先輩と反対の性格と言えばいいのでしょうか。純真無垢という言葉が具現化したような存在です。人の言ったことは、「いやそれは嘘でしょ」とすぐわかるようなことでも簡単に信じてしまい、疑いません。

 ただ純真であるだけでなく、とても好奇心も旺盛であり、少しでも興味が湧いたことにはずんずん進んで行っていくタイプです。

 この純真さと行動力に先輩は惹かれたのでしょうか。

 

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以上です、ありがとうございました(これじゃただの人物紹介じゃないか)。

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読了後、ブログを書く前に次の本に手を出してしまい、ブログを書き始める頃には読了してから三日以上経っている状況になっています。我慢ができません。なるべく気を付けます。でも仕方ないね、仕方ない。

14.『博士の愛した数式』

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 「[ぼくの記憶は80分しかもたない] 博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた───記憶力を失った博士にとって、私は常に”新しい”家政婦。博士は”初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1階本屋大賞受賞。」

 

14冊目は小川洋子さん著「博士の愛した数式」です。

 

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

 読了後、今まで本を読んできた中で感じたことのないような充足感がありました。こういうのを暖かい物語っていうんですかね。

 

 博士が家政婦とルート(家政婦の息子のあだ名)に向ける愛情も、家政婦とルートが博士に向ける愛情もとても深いのです。博士は80分前以上の記憶を忘れてしまうにも関わらず、お互いを家族であるかのような、また親友であるかのような心の距離の近い存在であり続けたのには、80分で消えない記憶が心に残っていたのだと思います。

 

 

 

②気になった点(※ネタバレ有り)

 

・博士の記憶

 博士は昔、交通事故により重傷を負い、その時の後遺症として記憶の保持ができなくなってしました。つまり、博士の記憶はその交通事故に遭った日で止まっているのです。この内容を読んでいる時に近頃読んだ「妻を帽子と間違えた男」の、脳に異常が見られる患者のエッセイを思い出していたので、勝手に感嘆していました。

 

 消えていく記憶を本人が知らないまま何十年も過ごすのはどんな気分なのでしょうか。心は若いはずなのに、容姿は明らかに老け、体も言うことを利かなくなっている…。博士は、朝起きた時に自分の記憶が80分しかもたないメモが袖に留まっているのを見るわけです。いつの間にかぼろぼろになっているメモを。

 

苦しすぎる。

 

ただ、家政婦とその息子と過ごす消えるとも消えない思い出は、きっと心に深く刻まれ続けているはずです。以後も幸せであれ!

 

 

家政婦の息子ルートくん

 このルートくん、齢10歳であるにも関わらず考えがたまに大人びているんですよね。そしてその心は博士に対する愛情に満ちているわけです。そしてその気持ちに応えるように、博士のルートに対する愛情も相当なものです。

 その二人のやり取りは他人の介入の余地も無く、孫とおじいちゃんみたいな感じに見えました。僕はおじいちゃんと孫という関係がたまらなく好きなので最高でした(笑)。

 

 博士のために、彼が好きな野球選手江夏豊プレミアムカードを多くの店を見回り、絶対に手に入れようとするルート。

 ルートの学校の宿題を丁寧に優しい言葉で教えてくれる博士。

 

あぁーいいですね。

 

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以上です、ありがとうございました。

 

 

僕は飽き性なのですが、意外とこの日記は続いています。

13.『何者』

 

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 「就職活動を目前に控えた拓人は、同居人・光太郎の引退ライブに足を運んだ。光太郎と別れた瑞月も来ると知っていたから───。瑞月の留学仲間・理香が拓人たちと同じアパートに住んでいるとわかり、理香と同棲中の隆良を交えた5人は就活対策として集まるようになる。だが、SNSや面接で発する言葉の奥に見え隠れする、本音や自意識が、彼らの関係を次第に変えて……。直木賞受賞作。」

 

 13冊目は朝井リョウさん著「何者」です。

 

今回は長めです。

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①全体の感想(※ネタバレ無し)

 まず初めに言わせてもらうと、かなり面白かったです。ほとんど止まらずに読んでしまい、読み終わった後思わず「なんだこれ面白っ(笑)」って感想が出てきました。話の流れからラストの結末まで完全に自分好みでしたね。

 

 登場人物は就活を迎えた大学生たちで、それぞれが就活対策をしていく中で、自意識であったり、本音であったりが、SNSなどを通じて悪い意味で伝達していく様がとてもリアルに書かれていました。

 

 自分が就活をしていた時の記憶も蘇ってきて、まさにこの本の登場人物の思っているようなことを体験したなと思い返していました。それもあってか、続きが気になって仕方なかったです。

 

 

 

②気になった点(ネタバレ有り)

 

・観察力

 話の視点は元劇団員の「拓人」であり、彼が就活仲間との会話の中で感じたことがその時々で詳細に書かれています。仲間からも時折「観察力がすごい!」と言われていますが、この本を書いている朝井リョウさんの人間に対する観察眼がとても優れているのだなと感じました。あまり小説を読んでいるときに著者のことを考えるのは避けているのですが、こればっかりは……(笑)

  

 

・現実とSNS上での自分

 タイトルにもなっている「何者」。この意味は読了した後に分かるのですが、主人公の「拓人」は、他の人とは違う「何者」かになりたがっていたのです。他の人には無い何かを持っている者、優れている何かをもっている者、そういった自分の中での理想とする「何者」に憧れていたのです。

 就活をするため、そして他人から高い評価を得るためにインターンや、留学、語学力、人脈を前面に出しSNS上でもアピールしている人を批判的に観察し、自分はそんな人たちを冷静に見ることができるという自負を持ち、違う視点を持ちながら就活を成功させようとしているのです。

 

 そんな拓人も結局他人とは変わらず、「何者」になることはできません。その事実は同じ就活仲間である「理香」から語られるのですが、この理香の言葉は僕自身にもかなり響きました。鳥肌がすごかったです(笑)。

 

 

・サワ先輩と理香の言葉

 まずはサワ先輩から

 サワ先輩は拓人のバイト先の先輩で、同じく就活生ながら院の推薦で就職はほぼ決まっています。

 そんなサワ先輩が、拓人が自身の知り合いである「ギンジ」と「隆良」の二人のことを似ている、と発言したことに対して語った言葉がグッときました。

 長くなるので割愛しますが、実際読んでみてください。すみません。

 

 

 次に理香

理香はまさに上で書いたような自分の留学経験や語学力をアピールし就活をしている大学生なのですが、彼女のセリフ

「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ。だから私だって、カッコ悪い自分のままインターンしたり、海外ボランティアしたり、名刺作ったりするんだよ」

 

 自分は留学してもインターンしても理想の自分にはなれなかった。加えて就職が決まった友人の会社の評判を調べて、そこがブラックだと知ると安堵したり、人のアドレスからツイッターのアカウント探したり。そんなカッコ悪い自分を認めてなお、必死にあがくのだと。あがく以外に選択肢が無いから。

 もっと話は長いのですが、だいたいこんな感じです。

 この部分を読んだとき、衝撃が走りました。僕も拓人と同じような立場から人を見てしまうときがあったので(別に観察力はありませんが(笑))、価値観が変わったかもしれません。いい意味で。

 

 

 

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以上です、ありがとうございました。

 

 

もう冬ですね。僕の天敵、乾燥が徐々に迫ってきています。というか既に蝕まれつつあります。

 

 

12.『妻を帽子と間違えた男』

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 「妻の頭を帽子とまちがえてかぶろうとする音楽家、からだの感覚を失って姿勢が保てなくなってしまった若い母親、オルゴールのように懐かしい音楽が聞こえ続ける老婦人───脳神経科医のサックス博士が出会った奇妙でふしぎな症状を抱える患者たちは、その障害にもかかわらず、人間として精いっぱいに生きていく。そんな患者たちの豊かな世界を愛情をこめて描きあげた、24篇の驚きと感動の医学エッセイの傑作、待望の文庫化。」

 

12冊目はオリヴァー・サックスさん著「妻を帽子と間違えた男」です。

 

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全体の感想(※ネタバレなし)

 今回は全体の感想のみとさせていただきます。

 

 オリヴァー・サックスさんは、以前読書感想で書いた「知の逆転」でインタビューに応じており、知の賢人の一人として紹介されていました。そして、サックス博士が「妻を帽子と間違えた男」というエッセイを執筆されていたということで、一度読んでみようと思い購入しました。因みにエッセイはほとんど読んだことがなく、読んだと言っても学校の教科書に載っているようなものだけです。

 

 この本にはサックス博士が、医学博士として、愛情をもって患者の方々と接し、治療にあたってきた24の物語が書かれています。医者だからこそ出会える、脳に何らかの異常が見られる人々との、普通の人ではできない会話や体験がエッセイという形で伝わってきました。

 

 実年齢が50近いにもかかわらず、記憶が20歳までで止まってる人。

 「左」という概念が抜け落ちてしまった人。

 アイデンティティが崩壊している人。

 「知的障害の天才」と呼ばれる、ある一点に置いてずば抜けた才能を持っている人。

 他にも様々な脳の障害によって特異な体を持った人々を、小説では味わえないリアルの話として味わうことができました。文章には医学用語が所々あり、若干理解しにくい箇所もありましたが、楽しく時間をかけて読むことができました。

 

 

 小さい頃は、脳の障害というと、今まで通りの日々を過ごしていればほとんど関わることがないだろうという、完全に他人事のような、異物のような、自分とは全く関係ないという感覚がどこかにありました。だから、街中で障害がある方々を見ても、「かわいそう」という下手すれば侮蔑に当たるような、今考えると本当に恥ずかしいとしか思えない考えを持っていました。

 今後生きていくうえで、もっと理解を持った接し方ができれば、自分は許されるでしょうか。

 

 

なーに書いてんでしょうか僕は。

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以上です、ありがとうございました。

 

勢いで書いたので、最後の文章は消すかもしれません。

ただ、僕はどんな人であろうと、その人を理解しようと努力することは怠りません。これは絶対です。